制度の利点や数字よりも大切だったのは社員の将来に不可欠な“伴走者”の存在

■人物名

確定拠出年金アドバイザー 岸川学
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株式会社アシスト 代表取締役 砂戸謙一

「結局は、預けられる人かどうかなんですよ」

 株式会社アシスト代表の砂戸謙一は、そう振り返る。企業型確定拠出年金(DC)の導入を決めた理由を尋ねると、返ってきたのは制度比較でも節税メリットでもなく、一人の人間に対する言葉だった。

「この人なら、ちゃんと社員に向き合ってくれると思ったんです」

 埼玉県朝霞市、荒川のほど近くにある株式会社アシストの処分場。民間企業としては稀な一般廃棄物の処理許可も併せ持つ同社は、家庭ごみから産業廃棄物まで幅広く扱っている。地域の暮らしを支えるこの拠点で、23名の社員が日々汗を流している。

 代表の砂戸謙一が掲げるビジョンは、「ここから始まる価値で80億人を笑顔に」。一見すると大きな言葉にも聞こえるが、地域の環境を守る仕事の先には、社会全体への責任がある。そんな想いが、この言葉には滲む。

 砂戸には、経営者として大切にしている信条がある。

「働くとは、傍(はた)を楽(らく)にすること」

 自分たちの会社を強くすることで、勤務する社員やその家族の生活を楽にしたい。そうした考えは、福利厚生のあり方にも向けられた。身体的負担も小さくない仕事だからこそ、数十年先の老後への不安を少しでも減らせないか。そこで検討し始めたのが「企業型確定拠出年金(DC)」だった。

ビジネス交流会で見た「気づける人」

 架け橋となったのが、確定拠出年金アドバイザーの岸川学である。

 二人の出会いは、あるビジネス交流会だった。砂戸が代表を、岸川が副代表を務め、組織運営を共にした濃密な時間。そこで砂戸が目にしたのは、岸川の鋭いアンテナだった。

「相手がいま何を求めているのか、どこに不安があるのか。そこに気づくかどうか。こちらが口にする前に察知して、相手の側に立てる。そういう感覚が、仕事の端々に滲み出ていたんです」

 一癖ある経営者が集う場では、時に衝突も起きる。そんな時、岸川は絶妙なクッションとなった。物腰は柔らかいが、守るべきルールや数字に対しては毅然と言い切る。そのバランス感覚が、組織運営を支えていた。

 だが、砂戸が岸川という人間に本当の意味で惹かれたのは、役職の任期を終えた後の告白だった。実は岸川本人は、「細かな数字管理や目標設定は得意ではない」のだという。かつてシステムエンジニアとして過酷な現場を渡り歩いた経験から得た管理能力を、組織のために使っていたに過ぎなかった。

「あの厳しい管理を、実は苦手だと思いながら、僕たちのために最後までやってくれていた。それを知ったとき、急に親近感が湧いたんです。ああ、この人は役割から逃げないんだなと思いました」

 実は、アシスト社には以前から多くの金融機関が企業型DCの提案に訪れていた。だが、砂戸の心は動かなかった。

「話を聞けば制度の利点はよくわかるんです。でも、それを導入して、うちの社員一人ひとりにどう向き合ってくれるのかが見えてこなかった」

 企業型DCは、企業が掛金を拠出し、社員自身が老後に向けた資産形成を行う制度だ。企業側には掛金を損金算入できるメリットがあり、社員側も運用益が非課税となるなど、税制上の優遇を受けられる。受取時にも所得控除が適用されるなど、老後の資産形成を後押しする制度設計になっている。

 制度としては申し分ない。だが砂戸が求めていたのは、制度のメリットだけではなかった。大切な社員たちの将来を任せられる“人”だった。そうしたタイミングで企業型DCの話をしたのが、かつてビジネス交流会で泥臭い調整を共に担った岸川だったのだ。

 実は、岸川にとっても企業へのDC導入支援は初めての経験だった。それでも砂戸の中では、ある程度答えは決まっていた。岸川なら、数年で交代してしまう銀行の担当者と違い、導入後も社員たちに寄り添い続けてくれるだろう。

「この人なら、預けられる」

 23名の社員、そしてその背後にいる家族。その将来を託す相手として、砂戸は岸川を選んだ。

社外のアドバイザーから「いつもの岸川さん」へ

 砂戸から実務のバトンを渡されたのは、総務部マネジャーとして経理も取り仕切る清川ひろみだ。社長から制度導入を切り出された際、彼女の口から出たのは「なんですかそれ?」という素朴な疑問だった。

「個人型(iDeCo)は知っていましたが、会社として導入するとなると、それがみんなにとって本当に良いものなのか、すぐにはイメージが湧かなかったんです」

 実務の負担も懸念された。23名の掛け金を管理し、不慣れな事務手続きをこなさなければならない。案の定、現場の社員たちも最初のアナウンスに困惑の声を上げた。

 岸川は、そうした声に丁寧に応えていった。全社説明会だけでなく、希望する社員とは個別面談を重ね、家族構成や将来の不安に耳を傾ける。そうしたやり取りを重ねるうちに、親しみを込めて岸川を“先生”と呼ぶ者も現れた。

 実務の窓口となる清川にとっても、岸川の存在は心強かった。

「最初は事務作業が本当に大変でした。でも、分からないことがあっても電話をすれば、岸川さんはいつもすぐに対応してくれる。そのレスポンスの速さがあったから、大きなトラブルもなく運用を始められました」

 いまや岸川は、忘年会などの社内行事にも顔を出すなど、社外の人間という感覚ではなくなっている。社員が自ら岸川に連絡を取り、資産形成や保険について相談する光景も日常になった。仕事の悩みは共有できても、個人の資産形成や将来設計といったプライベートな領域は、社内では言い出しにくいテーマだからだ。清川自身、自分の大切な友人が起業する際、「この人なら」と岸川を紹介している。経理担当者の視点から見て、岸川がもたらしたのは企業がDCの制度以上に、社員がいつでも頼れる存在がいることの心強さだった。

 砂戸は言う。

「社長と社員の間には、どうしても踏み込めない距離があるんです。やっぱり、社員が困ったときにアドバイスをもらえるのが大きかった。その安心感こそが、会社が社員に届けたかったことなんです」

 岸川はいまも、定期的に現場へ足を運び、社員一人ひとりの声に耳を傾けている。導入から数年が経ったいまでは、社員たちがこんな言葉を口にすることもある。

「岸川さん、今日は来てないんですか?」

取材・文/生島洋介(edited)

■プロフィール

岸川学

Manabu Kishikawa

1978年生まれ。長崎県出身。確定拠出年金アドバイザー。IT業界でSEやコンサルタントとして10年間従事し、いわゆる“炎上案件”の収束に多く携わった。その後、不動産営業を経て保険業界へ転身。IT時代に培った経験を活かし、保険営業では初月から全国1位となる。保険業歴は14年。現在はDCアドバイザーとして3年目を迎え、20社以上への企業型DC導入をサポートしている。申請代行にとどまらず、契約後の実務フォローにも継続して関わっている。

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